バイトの話

高3から始めたバイトを、今日辞めた。

 

高校生の頃、知り合いが来なそうで民度が良さそうという理由で初アルバイトに選んだその店は、チェーン店ながら8人中1人が知ってるくらいの知名度の、垢抜けない喫茶店だ。

 

客の年齢層が高くて、常連さんの多い店だった。

入りたての頃は長く続けているパートと常連で形成された空間が、ちょっとだけ居心地が悪かった。

それでも今日、私は常連さんからお花とか、靴下とかお菓子をもらった。みんな、私の目を見て、よくがんばったね、お客さんとしてまた来なね、と言ってくれた。

おばあちゃんと同じくらいの年齢の、みんな。

だんだん顔見知りになって、向こうから世間話をしてくれることが嬉しかった。差し入れの人数に私をカウントしてくれるのが嬉しかった。店に入ってきた時、私の顔を見てあっという顔をしてくれるのが嬉しかった。「いらっしゃいませ」だけじゃなくて「こんにちは」と言えるのが嬉しかった。

 

5年間でみんな5歳分歳を取ったのに、変わらずチャリをすっ飛ばして店にやってくる。

毎日くる。明日もくる。私が店を辞めようと、その先もずっとずっと。

 

 

 

店長は、自分のお父さんと同じ誕生日、同じ血液型で運命を感じたからという理由で旦那さんと結婚したらしい。私が面接に来た日、履歴書を見てまたまた同じ誕生日だったから、驚いたと言っていた。

働いていると、店長の娘さん?と聞かれることが結構あった。

ここで働く運命だったんだろうか。運命なんて笑っちゃうけど。

 

今日は客がなかなか帰らずにバタバタしていて、ゆっくり話をする時間もなく、いつのまにか店じまいの時間になっていた。

最後の15分くらい、なんとなく言葉を発したら泣いちゃうような気がして、お互いに押し黙って、ただ黙々と作業をしてた。

全部もう、最後なんだと思ったら。

終わるのが惜しくて、それでも、私の手は勝手に5年間で培ったハイスピード閉店作業を発揮していた。

ちょっとだけ残業して、作業を終えた。

 

店長と目が合わせられなかった。

 

「じゃあ、お疲れ様」と言われて、常連さんから餞別をもらった時とか、パートさんと挨拶した時とかの、全部の瞬間に我慢していた涙が急に出た。

店長と話すのが好きだったし、普通にめちゃくちゃ寂しかった。

店長も泣いてた。私だけだったら恥ずかしかった。

 

ここは良い店だ。なぜなら店長が良い人だから。

店長が良い人だから、私だけじゃなくて他のパートさんや、お客さんが居着くのだ。

 

みんな、4月から頑張ってねと言ってくれた。私も同じように、みんなや、店のことを思っている。

今度、お客さんになって店長の焼いたホットケーキを食べに行く。